古くは日本の住宅といえば「木造住宅」が全てでした。柱、梁、筋交いをべースに造りあげる、木でできた家。それは高温多湿な風土に合わせて考えられた、知恵の結晶とも言えます。
高度経済成長期に生まれた鉄骨住宅は、その存在を認められてはいるものの、正直、戸建てとしては大衆になじみの深いものとは言い難いでしょう。「鉄骨は高い」「鉄骨は無機質」そんなイメージも強いかもしれません。
特に価格面が最大のネックとも言える鉄骨住宅ですが、近年、木造住宅との価格差は徐々に縮まりつつあります。
近年の戸建てのシェアで見ると「木造」は約80%「鉄骨造」は15%前後となっています。数字で見ると、まだ木造には及びませんがじわじわと増加傾向にあり、今後の成長が期待されます。
ここからは、これから注目の「鉄骨住宅」について、詳しくご紹介します。
鉄骨住宅とは?
鉄骨住宅とは、柱、梁等の構造材を鉄や鋼の鋼材で作り上げる住宅のことです。構造材は鉄骨ですが、床や壁には木材を使用します。
鉄骨住宅には、重量鉄骨造と軽量鉄骨造の2種類があります。2階建てまでの戸建ての場合は、軽量鉄骨になることが多いでしょう。
鋼材の厚みが6mm以上のものは「重量鉄骨造」、6mm未満のものは「軽量鉄骨造」と呼ばれます。
鉄骨住宅の3つのメリット
①地震に強い
鉄骨住宅の最大のメリットは、構造の強さにあります。建物を鉄骨の柱や梁で支えるため、木造よりも少ない数の柱や梁で全体の強度を保つことができるのです。
地震が起きたとき、金属は特有のしなりで地震の揺れに耐える構造になっています。
木造住宅に比べて地震の揺れは大きく感じますが、鉄骨が折れる危険性は低いため、建物の倒壊する可能性も小さいと言えるでしょう。
②工期が短い
鉄骨住宅の工期は、およそ4ヶ月前後と言われます。あらかじめ工場で大枠を作り上げるユニット工法に限っては、さらに工期が短縮されます。
木造住宅と違い、鉄骨造は工場で構造部材を加工するため、現場ではそれらを組み上げる作業が主です。そのため施工精度が高く、均一な建物に仕上がるのは大きなメリットと言えます。
③設計自由度の高さ
建物の強度が高い、柱が少なくて済むということは、間取りの自由度に直結します。
鉄骨造では少ない数の柱で全体の強度を保てるため、大開口や大空間などを取りやすく、それは大きなメリットとなります。
また、ビルトインガレージやオーバーハングなど、1階部分より2階以上の床面積が多い間取りも可能です。間取りの自由度が高まることで敷地の形状等に合わせて、検討の幅が広がります。
鉄骨住宅の3つのデメリット
①火災に弱い
木造よりも、燃えにくいと思われがちな鉄骨造。確かに鉄が燃えることはありませんが、壁や床等に木が使われている点は木造と変わりありません。
また、鉄骨そのものが燃えることはありませんが、火災の高熱にさらされ構造体が550℃を超える状態に陥ると、急激に強度を失う可能性があります。
結果、建物の倒壊も充分考えられますので、過信してはいけません。
②断熱性能は木造より劣る
金属の持つ特性として、熱伝導率の高さが挙げられます。住宅においては、熱伝導率が高いことは外気の影響を受けやすくなるというデメリットに直結します。
ハウスメーカー各社、断熱対策には力を入れていますが、木造には及ばないのが実情です。
③建築費が高い
施工会社にもよりますが、建築費用は木造よりも高いと言われています。一般的には、木造<軽量鉄骨<重量鉄骨<RC造の順に価格が上がっていきます。
鉄骨造は、構造体そのものが重くなるため、土地によっては基礎に補強を必要とするケースもあります。基礎の補強でさらなるコストアップの可能性もあるため、注意が必要です。
鉄骨住宅と木造住宅、4つの違い
完成してしまえば、外観からはその差がわかりづらい住宅の構造。しかし、長年住んでいれば随所にその差が現れます。
構造の違いを知り、どちらが自分たちの考え方やライフスタイルにマッチしているか、考えてみましょう。
①地震の耐え方
木造と鉄骨造では、鉄骨造の方が建物の強度は高いと言われます。また、地震に対する力という観点では、木の持つ性質と鉄の持つ性質により差があります。
木造は、地震が起きても揺れにくく、揺れに耐える耐震構造です。対する鉄骨造は、金属が持つしなやかさで地震の揺れを逃す制震構造となっています。
また、それに付随して外壁には次のような特徴があります。木造住宅は、モルタルに吹き付け、サイディング、タイル貼りのいずれかを選ぶのが一般的です。
鉄骨住宅は、地震の揺れが起きた時に外壁が剥がれ落ちないよう、独自の外壁を採用するメーカーがほとんどです。
サイディングに似た素材の外壁、コンクリート系の外壁等、その多くはメーカー独自に作り上げています。
②設計自由度の差
建物の強度の差は、設計自由度の差になって現れます。
鉄骨造なら屋上を使いたい、あるいはビルトインガレージにしたいと言った場合に、その構造の強さを生かすことができます。
木造でもメーカーによってはある程度まで対応出来ますが、鉄骨造には敵いません。
③防腐、防蟻処理
木造住宅に長年住んでいく上で懸念されるのは、腐れやシロアリの被害です。木造住宅においては、防腐処理、防蟻処理は必須になっており、10年、20年のメンテナンスに際してそれらの費用が加算されることも考えておかなければいけません。
対する鉄骨住宅では、腐れやシロアリの被害については、ほぼ考える必要がありません。
④断熱性
熱伝導率が高い金属を用いた構造体の鉄骨造に対し、木造は全て木材でできています。
そのため、通常、断熱性能は木造の方が上です。鉄骨造のメーカー各社も、断熱材を開発したり様々な工夫をしていますが、木造がリードしています。
断熱性能は、エネルギー効率にも関係しますので住み心地はもちろん、光熱費にも関与してきます。目には見えませんが、実際の住み心地、またランニングコストという意味で、侮れない部分です。
鉄骨住宅を扱うハウスメーカー5社と坪単価の相場は?
①積水ハウス
住宅業界最大手、鉄骨から木造まで幅広いラインナップを手がける積水ハウス。鉄骨では、軽量鉄骨、重量鉄骨の両方を取り扱っています。
多彩な外観、メーターモジュールのゆったり感、内装のバランス、また大手の安心感から、人気の高いハウスメーカーです。
坪単価は50~80万円が目安です。
②大和ハウス
積水ハウスと並び、住宅業界を牽引する大和ハウス。木造も手がけますが、もとは鉄骨をメインで取り扱ってきたハウスメーカーです。
軽量鉄骨、重量鉄骨の両方を取り扱っています。他社を突き放す天井高、鉄骨が作り出す空間自由度の高さは大きな魅力です。
坪単価は40~80万円が目安です。
③ヘーベルハウス
CM等で「頑丈な家」のイメージが強い、ヘーベルハウス。
軽量鉄骨、重量鉄骨を専門に取り扱っています。特徴的な外観は意見の分かれるところですが、ハイクラスな内装、「頑丈」というブランドイメージから、根強い人気があります。
坪単価は70~80万円が目安です。
④パナソニックホームズ
家電等でおなじみの「パナソニック」を母体とするハウスメーカーです。家電のイメージが強いですが、住宅業界でも建材から住宅設備まで幅広く取り扱っています。
パナソニックグループの強みを活かし、内装から設備にいたるまでパナソニックでトータルコーディネートができるのは、独自の強みと言えるでしょう。
坪単価は70~80万円が目安です。
⑤トヨタホーム
出典:トヨタホーム|注文住宅
言わずと知れた自動車メーカー「トヨタ自動車」を母体とするハウスメーカーです。
自動車の技術を活かした鉄骨ユニット工法、鉄骨軸組工法を二本柱としています。本社の愛知県を中心とした東海地方で人気です。
坪単価は60~70万円が目安です。
まとめ
日本の住宅業界は「スクラップアンドビルド」と言われます。すなわち、壊しては建てる、また壊しては建てるの繰り返しです。
日本の住宅は、平均すると25年程で建て替えるのだとか。人の寿命はとうに80歳を越えたというのに、ずいぶんな差です。
25年程度で建て替えるということは、働き盛りの30代でマイホームを建てたとしたら、定年前後に建て替えを検討しなければいけないことになります。それは、正直かなり負担です。
天災が起きると改めて話題に上る「住宅の役割」。地震大国日本において、住宅はシェルターとしての役割を求められます。
しかし、実際に災害に見舞われた時、果たしてどれだけの住宅がその役目を果たせるのかは大いに疑問です。
地震大国日本において、今後求められるのは「スクラップアンドビルド」と呼ばれる建物ではありません。地震に耐え、建築当時と変わらぬ強さを20年、30年という長いスパンで維持できる建物こそ必要とされるのです。
鉄骨住宅というと注文住宅のイメージが強いですが、大手ハウスメーカーが手掛ける大規模な建売分譲地では建売の鉄骨住宅も見受けられます。
もちろん、建売とは言っても大手が手がけるものですから、一定の品質、保証などの安心感は変わりません。建売住宅しか検討していないという方にも、鉄骨住宅の選択肢はあるのです。
これから望まれるのは、次世代に残す家です。そして、鉄骨住宅抜きにしてそれらの夢は語れません。20年、30年先の未来を見据えて、鉄骨住宅を検討する価値は充分だと言えるでしょう。