筆者が所有者の皆様から受ける相談の中で、最も頭を悩ませるのが、所有不動産の有効活用についてです。単純に売却相談であれば一遍通りで簡単なコンサルティングを経て、決着も早い案件と言えますが、いざ活用となると所在地周辺の用途地域や地目、各種の規制やその土地周辺のニーズに至るまで専門外の高等な知識まで総動員して問題にかかる必要があるからです。
しかし古くから言われる”不動産は3代で失う”と言う定石通り、放置をしていればその維持費と税金で確実に財産としては無くなってしまいます。
地主様など複数の不動産を代々受け継がれているご家庭の苦悩もさんざん耳にしている中で、この問題に取り組むことはたとえ面倒であれど、不動産のプロとして生きていくには避けては通れない道でもあります。
本コラムでは不動産、特に空き地の活用法について、全国各地で行われている様々な取り組みや関係省庁、自治体の補助支援策、そして地域住民の皆様の、プロの私が舌を巻いたクールな活用アイディアに至るまで、事例を交えながら皆様に説明させて頂きたいと思います。
空き地の現状を把握する
空き地にはその所有のきっかけから現状に至るまで、所有者の皆様によってさまざまな個々のストーリーがあると思います。例えば
・相続で預かった先祖代々の土地
・セカンドハウス建築の為にとりあえず購入した土地
・田畑として使用していたが、使わなくなってしまった土地
・仕事に使う資材や自動車などを置いていたが、現在廃業して使わなくなってしまった土地
・アパートを建てて賃貸していたが、建物の老朽化により現在は賃借人もおらずそのままの土地
ただ今からこれらの土地を活用しようと考えて、どのようにでも自由に今すぐ実行に移せるかと言えば、必ずしもそうではありません。所在地の地目によっては商売を始めるのに不向きな場所もありますし、ニーズに合わない活用法では経費だけがかさみ、物件としての価値を事業経費が上回ってしまい、損してしまう事も考えられます。
用途地域や自治体による制限も考えながら、地域ニーズに合った活用法を見出し、そのプランを具現化した上で収支を計算し、実行に移す必要があるのです。
使わない空き地は金食い虫
使用するしないを問わず、従来建物の立っている土地には、固定資産税の減額制度があります。商業地なら7割、住宅地なら6割が、従来の税額から減額するのです。
ところが建物を解体し更地にしてしまうとこの固定資産税の減額が適用されなくなり、実勢的に税負担が3倍~4倍に跳ね上がってしまうのです。何も使用していない所に税負担が増えるとなれば、これはますます放っておけない問題です。
空き家対策特定措置法により減税優遇が受けられない
また、2015年5月26日に施行された空き家対策特定措置法によると、倒壊の恐れや衛生上の問題があると自治体から勧告、是正命令を受けた空き家に関しては特定空き家とみなされ、更地同様固定資産税の優遇を受けれなくなってしまいます。
もちろんこのような行政指導や税制上の不利だけでなく、荒れた建物や雑草の生い茂る空き地には周辺住民の反発も厳しく、定期的な手入れにもまたコストと手間がかかってしまう。放置不動産と言うものはその存在自体がまさに、金食い虫なのです。
空き地活用の事例
空き地を活用すると言ってもその活用法は様々です。以下参考までに事例をまとめました。
既存の建物を利用した事例
まず、既存の古家の離れ部分を改築し、現在漁家民宿として盛業中の漁家民宿かささをご紹介します。
この民宿は2010年に、大阪で長く建設業に関わっていた主人が父の逝去に伴い帰郷し、それまで単身島で亡父の身の回りの世話をしていた奥様と2人3脚で始めたものです。過疎化で産業が衰退した瀬戸内の離島で生きていく為に、自宅離れの3部屋をリフォーム、物置を改装して食堂にし、屋根にはウッドテラスをしつらえ、当初1日限定1組の宿としてスタートしました。
山口県で2例目の漁家民宿としてローカル番組に取り上げられ周防大島町では地方創世の先駆的な存在となり、その後テレビ朝日「人生の楽園」に2回取り上げられた事でその知名度は飛躍的にアップ。一躍予約の取れない民宿として大人気に。その後、周防大島町の事業として開催される家業体験型修学旅行の中高生受け入れも積極的に行い、島民14人の離島に新たな産業を生み出し、現在に至ります。
周防大島近海で獲れる新鮮な魚介類や、島内の畑で栽培されている野菜や果実をふんだんに使用した豪華な料理と、漁家民宿ならではのリーズナブルな価格設定が常連客を確実に掴み、生活の手段を超え周防大島町観光事業の目玉に数えられています。
建物を新築し利用した事例
やはり一般的に言えば、空き地に建物を建てて賃貸経営と言うのが王道であります。例は大手ハウスメーカーのものですが、現在ではその土地建物を一括借り上げし、収益期間中は企画会社から土地所有者に利益を配当するというパターンが最もオーソドックスでしょう。
勿論手間を惜しまずより効率的に活用したい方は、自身で収益物件を建築し、運営するという選択肢もあります。近年、デザイン事務所や工務店などが家主セミナーなどを開催しているケースも多く、そのようなセミナーに参加して知己を得る事も、有効な手段であると言えます。
参考:http://www.mitsubishi-home.com/wp-content/uploads/2016/11/solution_1611.pdf
太陽光発電所など収益工作物を設置した事例
近年、売電価格の低下などで敬遠されがちな太陽光発電所の設置も、土地購入にかかるコストがない相続物件などであれば、材料費や工賃の低下もあって、まだまだ収益性としては見込める案件と言えます。
更地をそのまま利用した事例
最後に空き地をそのまま利用して収益を挙げる事例です。
こちらは千葉大学を卒業した2名の女子学生が発案し、地域の住民に支えられて空き地をコミュニティスペースとして活用している例です。
参考:ソトノバ
ライブやワークショップイベント、家庭菜園など、実に多彩なアイディアをもって40坪ほどの空き地をワクワクするようなスペースとして活用していますね。
参考:HELLO GARDEN
空き地の活用にどんな準備が必要か
空き地を前出の例のように利用する為に必要な準備について触れてみましょう。
建物を再生し使用する場合、材料や工賃などのリフォーム代がかかる事はもちろん、その変更内容によっては建物の登記変更が必要になる場合もあります。事前に業者とよく打ち合わせをして、費用に関してはきちんと押さえておいた方がよいでしょう。
建物を新築するにあたっても然り、こちらは借り上げ業者に任せた場合、所有者の考えるはほぼありませんが、自身で建築を検討される場合は、その周辺の相場事例や建築可能な部屋数、ランニングコストなど総合的に収支を計算しておく必要があります。この辺の知識についてもセミナーで得ることが出来ますし、工務店の担当者などが簡単な収支表を作成してくれる場合もあります。
また、空き家の再生や地方創生としての支援策、太陽光発電設備の設置に関わる補助金や助成金の制度も多様にあります。相談に際して、プロの説明をよく聞いておくと、準備にかかるコストを大幅に削減することが可能な場合もあるのでチェックしておいてください。
まとめ
いかがでしたか?このように空き地一つとってもその地域、ニーズ、アイディアによってさまざまな可能性を秘めています。そしてそのアイディアを実践している事例はネット上にもたくさんありますし、各種のプロはすべての事例を網羅しています。
このコラムをきっかけに、寝かせてしまっている空き地からクールなアイディアを生み、新しい事例がまたネットをにぎわす面白い記事につながれば、筆者として幸いです。