最近何かと話題になっていた「民泊」、今までに掲載タイトル内でもたびたび触れてきましたが、この民泊事業にやっと、正式な国の回答が出ました。
去る平成29年6月9日の参議院本会議にて、「民泊新法」の別名で論議されていた「住宅宿泊事業法」が可決・成立し、早ければ来年1月にも施行される予定です。このことによって今後日本国内の不動産活用に新しい風を吹き込む一大市場が正式に誕生します。
民泊新法では民泊に関わるビジネスの形態を事業者、管理業者、仲介業者の3種類にカテゴリ分けし、業態別にルールを定義しています。また、細かい点については地方条例で補完するようで、地方によって取り組みの内容にも差が出そうです。
本コラムでは民泊新法の施行によってある意味緩和された、けれど守るべきルールもはっきり定義された中で、どのような展開がビジネス成功へつながるのか、既存の成功例も含め考えていきたいと思います。
ただ貸すだけはダメ。経営に必要な「マスタリー・フォー・サービス」
法律の概要は顧客サービスに通ずる
法の基本的な内容としては従来の旅館業法や特区民泊のルールに沿った形で、宿泊者が普通に生活をするために必要十分な面積があり設備が整っていること、安全衛生に配慮されていることを軸に設けられています。
これらの条件は、裏を返せば民泊とは言え立派なサービス業であるため、宿泊者の安全衛生、快適さに配慮した施設づくりが必要不可欠であることを示しています。
実際に自身が用意した施設に赤の他人をお迎えするのですから、相手が何を求め、その欲求に出来る限り、もしくはそれ以上に応える気持ち。これが民泊運営の明暗を分ける一番大事な要素です。
サービス業を営むにあたり必要なホスピタリティ
生活空間としての施設内を快適に過ごすことができ、利用者の興味に沿った観光のアテンドが出来るような資料を備え、多国語に対応でき、外国人を気持ちよくお迎えできる環境を周辺住民との協力をもって作り出すこと。決してお仕着せではなく各人のニーズにまんべんなく答えることがビジネスを成功に導く第一条件でしょう。
筆者が住んでいた大阪の近郊にある大学のポリシーに「Mastery for service(奉仕への練達)」という言葉があります。
この言葉はそのまま、これから民泊ビジネスを行おうとするたくさんの人が理解し、行動するために必要な指針であると筆者は感じます。
ただ転貸するだけのビジネスは淘汰される
筆者自身も少し前に、検証がてら自宅で民泊をやってみました。その時にオーストラリアからのバックパッカーを迎え入れ民泊に対する自身の取り組み、考え方の甘さを痛感した経験があります。
現状一般賃貸との比較で利回りが高いことばかりに目が行ってしまい、ただ部屋を借りて転貸し、その差額を儲けるためのビジネスとしてしか民泊を捉えていない人は、遅かれ早かれ淘汰されてしまうことでしょう。
宿泊施設に利用者が求めること
数少ない経験ではありましたが、筆者が実際に民泊ホストをやってみて気づいた、利用者が求めている民泊とは何なのかを考えてみました。
コミュニケーションを求める人は意外と多い
核家族化や個人主義、コミュ障などの言葉に躍らされて、多くの人は勝手に、集団生活について間違った解釈をしているのではないかと思います。民泊の利用者は大半が一人旅で、遠い海外から来ている人も多い。頼りにしているのは1冊のガイドブックで、言葉の通じる人も少ない。
このような状態の旅行を続けていて、正直「人肌恋しい」状況になっている人は少なくありません。現実「シェアハウス」というテレビ番組が大人気であったこと、民泊の先駆けという表現はいささか失礼であるかもしれませんが共有スペースにドミトリーというような業態で運営されている「ホステル」と呼ばれる簡易宿所は活況を呈しています。
旅の情報交換や心のよりどころとして共有スペースで袖すりあった縁の人同士が触れ合えるコミュニケーションの場は、民泊においても必要なパーツではないかと考えます。
清潔感は重要
筆者が民泊体験に用いた家は、実際に居住している和室2間に台所の平屋建て住宅です。築年数も40年ほど経っているので現在並みのおしゃれな空間では決してありませんし最低限嫌な顔をされはしないだろうというレベルだと思います。
この部屋を、徹底的に清掃して常にほこり一つ落ちていない状態に保っていました。もともと掃除が嫌いでないことと、自分自身古い家屋が汚いと、トイレに行くのも嫌になるという感覚なので出来るだけ快適に過ごせるよう考えていたら、実際に利用した人からよろこばれました。
現実民泊を渡り歩いて旅をしている人は、だれが使ったかわからない施設に生活感が出ていることを非常に嫌うようです。行き届いた清掃と徹底した整理整頓で、懸念はクリアすることができます。
キーワードは「ネオジャパネスク」
それと最近はニーズに応えそのようなホストが増えてきた感がありますが、特に外国人観光客は宿泊している施設にも日本的なものを求めています。
しかしそれは我々がイメージとして持っている昭和の茶の間ではなく、武家屋敷や迎賓館などにみられる、「和洋折衷」なのです。
大半の外国人は通常の生活の中で、「地べた」に寝たり座り込んだりする文化はありません。いくら玄関で靴を脱ぐとはいえ、床に直接腰を落とすことには抵抗があります。なので彼らの生活の様式を取り入れ、かつ和の情景にあふれるような部屋作りが、外国人に「ウケる」コンセプトです。
民泊経営の成功事例
Airbnbには2016年10月現在、日本国内に4万件余りのホストが存在しています。この中でも特にオファーをたくさん受けている人気のホストの例を見てみましょう。
参考:京都の旅館
この部屋は、京都にある旅館の部屋なのでAirbnbでなくてもよさそうなものですが、とても人気があるそうです。宿泊費も1泊6万円を超えるたいへんラグジュアリーな空間です。
逆に言えば外資系のシティホテルと違ってこのように古くから地域に根差して運営してきた旅館などは、外国人観光客になかなか門戸が開かれていなかったものがAirbnbによって広い層に拡散し、日本らしさを体感できる部屋として受け入れられているのではないでしょうか。
さすがに日本庭園を望む内風呂までとはいきませんが、地方の古民家などを少し小綺麗にやり替えることで、外国人の興味を引き付けるネオジャパネスクを演出し、廉価な設定にすれば、十分な集客を見込むことができる事でしょう。
他にも、任天堂のゲームの世界やポケモンの世界を演出しているようなホストには、世界中からオファーが殺到しているようです。
これもある意味、日本発祥の文化で世界的にムーブメントを巻き起こしていますので、そういった文化に傾倒した部屋作りも、成功への近道であると言えます。
まとめ
ここまでホストとして部屋の作り方であるとか利用者を迎える姿勢について述べてきましたが、現状民泊について賃貸物件を転貸するだけの商売だと考えている輩があまりにも多く、それでは日本人のレベルを低く見られ、インバウンド需要が遠のいてしまうリスクを考えざるを得ません。
従来「宿」を運営するためには厳格な法的要件と、利用者をうならせる高いホスピタリティ要件が求められます。「宿」の経営はそんなに甘いものではないということなのです。
それを踏まえた上で今一度、民泊で変わる日本の経済、文化、国民性を重視し、ホスト一人ひとりが社会使命をもって積極的に市場を作っていく気持ちでこの新市場に挑んでいただきたいと筆者は考えます。