一般的に聞きなれない、「任意売却」という言葉。このコラムを読む皆様も「初めて聞いた」とか、「聞いたことはあるが意味はよく分からない」という方が多くいらっしゃると思います。
不動産流通の手法としては特殊なケースに当たります。どのように特殊なのかを説明するにあたり任意とは誰の任意かということを知る必要があります。
一般的な不動産の売買契約において、売主のこの価額で売りたいという意思と、買主のこの金額なら買ってもよいという意思が合致した時に、契約が成立します。お互いの任意ですね。
しかし任意売却における任意とは、物件所有者の任意ではありません。物件に抵当権を付けている抵当権者の任意を以て、任意売却は成立します。
任意売却とは、抵当権のついている物件を抵当権者との交渉によって任意で売却するケースを指します。
本コラムではこの、「任意売却」についてわかりやすく説明します。
任意売却になる条件
住宅ローン債務の返済がある一定以上滞ったら、債権者である銀行は債務者である物件所有者に返済を迫ります。督促の期間を経てなおかつ返済も具体的な協議もできないまま時が過ぎると、その債権は債権管理の部署に回り、債務者は「期限の利益」を喪失します。
契約時の約定通り返済できていれば物件は所有者の意思で動かすことができますが、返済が滞った結果、期限の利益を喪失してしまった債権者は、物件についている抵当権を原因に、その一切の権限を債権者に奪われてしまうことになります。
このような場合、一般的には債権者が裁判所に競売の申し立てをし、競売開始の通知が債務者にも届き、裁判所から執行官と評価人がきて物件は競売にかけられるのですが、競売でなくても債権者が納得できる金額を提示することで物件を購入することができるのです。
競売は、開札日の前日までであれば、理論的には取下げをすることができます。債権者が応じてさえくれるのであれば、この日までは物件を直接交渉で契約することが可能なのです。
もちろん債務者が自分で契約することはできません。債権者からすれば交渉して買えるお金があるならきちんと返済をしてくださいということです。
任意売却とは即決オークションに近い
つまり任意売却とは、ネットオークションでよくある「即決交渉」のようなものです。元々競売もせり売りのようなもので、落札可能価額を超えて最高値を付けた人が所有権を得ることができますが、その金額がいくらになるのかは開札日までわかりません。
予想を下回る価額で落札されてしまっても債権者は容赦なく抵当権を外し物件明け渡しをしなくてはならないのです。
それならばこのくらいの金額なら抵当権を外して売却してもいいかな、というところを直接交渉して、合意のもとで契約することで、物件が安く仕入れられます。
これが任意売却における購入者のメリットです。任意売却は債権者との交渉が必要になるので素人では難しく、一般的に業者の物件仕入れ手法として認知されています。
なので近年、競売に参加するエンドユーザーが増え競売の方が高値で売却できるという現象が起こったため、プロ相手の交渉より競落の方がいいと、債権者が任意売却の交渉に応じてくれなくなったという現状もあります。
このために一時期は影を潜めていた任意売却なのですが、不動産の価値の変動が大きい現在、価値の下落が著しい地域では再び熱を帯びつつあります。
近年任意売却の件数が増加した背景とは
皆さんご存知の通り、現在都市一極集中の状態が続いており、大都市圏では人口は流入していますが地方では流出が止まりませんこういった人口事情に連動するように、大都市圏とそれに続く一部の地方都市でのみ地価が上昇し、それ以外の地域では地価の下落が続いています。
特に不動産価格が高騰した時に高値で購入した担保価値が割れてしまっているような物件に関しては、競売でいくらいい値がついても現在の相場値くらいまでであることから、条件によっては債権者も任売交渉に応じる可能性が出てくるということです。
空き家問題等の社会的な背景も後押しして、特に地方で地価の下落傾向を逆手に取った任意売却市場の開拓に大手の媒介業者も積極的に参加しており、以前は債務整理の手段としてあまり表には出ていなかった任意売却について専門的な知識を付けたアドバイザーなどが、名前を聞けばだれでも知っているような媒介業者に配置されていたりします。
大手の積極的な参入によって市場が拓かれ、近年任意売却についての相談や、現実的に売却の件数も増えているようです。
3点セットの見方もわからず、欲しい気持ちだけで隠れた物件の負債に気づかず、結果として一般売買よりも高い買い物をしてしまうような何かおかしい現在の競売市場よりは結果としてお客さんおメリットにつながるいい傾向ではないかと、筆者は個人的にそう感じています。
まとめ
結局、任意売却は競売に代わる、いわゆる不良債権化した不動産の流通方法の一つです。普通に売買するのと同じ方法ではありませんので、大多数の人にはご縁のない世界なのかもしれません。
しかしこの世の一寸先は闇です。自身がそのようにして金融事故を起こしてしまう羽目にならないという、絶対的な保証はどこにもありません。
期せずしてそのような状況に陥ってしまった場合に、任意売却にはメリットがあるのでそのような売却の方法があることをまずは知識として吸収していただくことをお勧めします。
購入する側としては、普通に不動産を購入するのとそう変わりはありませんが、近年の傾向をみていると、地方で不動産を買うにあたっては掘り出し物に巡り合えるチャンスがあるかもしれません。
地方の不動産を様々な用途で購入することを検討されている方は、任意売却の物件にアンテナを張っておくのも賢く不動産を購入できる知恵になることでしょう。
手法としては昔からありますが、高度な情報化社会の恩恵として昔は閉鎖的で知る人ぞ知るような情報も、現在は一般人でも簡単に得ることができます。
但しプロから見れば嘘の情報、だましの情報も多くあるため、自身が得た情報だけを聞きかじりで見切り実践するのでは損をしかねません。
その道のプロに相談をしながらあふれる情報の中から本物を吟味し、対策を講じて果敢に挑むことが不動産仕入れの鉄則です。
色んな市場がボーダレスに解放されることは一部にとって好ましいことですが、不動産の流通には特別な知識と経験がどうしても必要になることについても、ご理解いただけると非常にありがたいと存じます。
