一般の人にはまだ馴染みの薄い不動産競売の世界。その市場に物件が出てくるプロセスには普通に生活していれば到底出会うことのない薄暗く物悲しいストーリーが隠されているのです。
そして落札者が物件を落札し、引き渡しされる時点でそのストーリーはフィナーレを迎え物件は新たな主を迎えてその新たなストーリーを育む場になります。
しかし競売期間中や落札後、引き渡しまでの期間にもその悲しいストーリーの一部は物件に生々しく残っています。
落札する方からすれば値段が安く買える等のメリットはもちろんあるのですが、心象的に自身の物件が競売にかけられる場合はもちろん、競売物件を落札し購入する経験をした場合でも、その記憶は鮮明に残ることでしょう。
本項では、悲喜こもごも様々な感情が交錯する競売の世界における仕組みと、物件が生まれて誰かのものになるまでの流れを説明したいと思います。
競売申し立てまで
不動産競売には、税金の不納付等の理由にかかる強制競売と、住宅ローン滞納など債務の不履行にかかる抵当権等の所有権以外の権利の行使に伴う担保競売の2種類があります。本項では担保競売のケースをベースにしてそのプロセスについて説明します。
抵当権等所有権以外の権利は、債務の不履行がない限り行使されることはありません。つまり住宅ローンの支払いを滞らせることがなければ、不動産を競売にかけられることはないのです。つまり競売にかかっている物件には、そのような後ろ暗いストーリーがついて回っています。
当たり前の話なのですが、競売不動産が不動産流通のルートとして認知するうえで、明らかに一般の不動産流通とは性質の違うものであることを購入者が理解・納得しておく必要があることを筆者は感じているので長い前置きを置くことにしました。
まず債務者である物件所有者が、抵当権にかかる債務の返済を滞らせることに始まり、一般的には3カ月の支払いが滞った時点で、債務者は民法で表現するところの「期限の利益を喪失」します。
その後督促を行っても自体が解決しなければ債権者は回収にかじを切り、自身が持つ抵当権を原因として、当該物件の所在地を管轄する裁判所に対して競売の申し立てをします。
競売開始決定から入札まで
裁判所は競売の申し立てを受けた後、諸々の手続きを経て競売開始決定をします。この際に競売開始決定通知書が債権者、債務者双方に送付されます。
競売開始決定通知が届いてからだいたい1か月から3か月後に、裁判所は債務者の元に執行官と評価人を送り、債務者から事情を聴くと同時に物件の現況調査をします。
この調査で調べた物件の現況や、債務者から聞き取った事情の事実確認を関係各所と連携して行い、現況調査報告書・物件明細書・評価書の3点セットが編集されます。
現況調査がからおよそ2ヶ月から4か月後。調査状況によってこのくらいの差が出ることがありますが、競売の公告(期間入札の通知)がなされたのち、1週間程度で3点セットが公表されて物件が一般公開されます。期間入札の通知から入札の開始までは、およそ2ヶ月くらいの日数を要します。
その後期間入札が開始され、1週間後に開札をします。入札は最も高値を付けた入札者が落札できる方式です。
オークションのように応札で価額をせり上げるものではなく、よく考えて決めた価額を申込書に書き込み、入札保証金を払い込んで申し込みをする一発勝負です。自身が落札できなければ、入札保証金は返金されます。
競売物件に落札がなければどうなるの?
期間入札にかかった物件に対し、入札が1件もなく不調に終わることも当然あります。このような場合、もう一度時期をずらして期間入札を行います。それでも入札がない場合は特別売却という競落方式とは違う売却方式で物件が出されます。
特別売却とは、最高値の入札者を落札者とするのではなく、入札期間中一番早く入札をした人が落札できるという方式の売却です。つまり早い者勝ちで、後から入札した人の方が高値を付けていたとしても、最初の入札者に権利が発生します。
稀に特別売却でも入札者がなく、物件が落札されないということもあります。このような場合は競売・競売・特売の一連のサイクルを、2割づつ価額を落として3回繰り返すことができますが、それでも入札がなければ競売取下げということになります。
落札から物件引渡にかかる期間
落札後、売却許可決定を経て代金を納付したのち、所有権移転登記は嘱託にて行われます。売却許可決定から物件代金の払い込みまではおよそ1か月程度の猶予があり、代金が納付されれば1週間程度で所有権の移転登記がなされます。
所有権は移転しているのですがこの時点で占有者はまだ物件を占有している場合が多くあります。あまり長いようでは強制退去を申し立てることもできますが、事情が事情だけにそれも心象的に言いにくいことと思います。これも競売物件の購入に伴うデメリットではあります。
一般的に半年程度の猶予を与えて自主的に解決しているケースが最も多く、実質的にはこのくらいの期間を経て晴れて自身の持ち物として手に渡ると考えることが無難かと思われます。
まとめ
何度もしつこいようですが、一般的な不動産の流通と競売での不動産購入はその性質も異なり、客商売・サービス業としてのホスピタリティをそこに求めたり、物件に対して無駄にクオリティを求めることも購入者に対して許されるものではありません。
筆者が思うに、確かに安く購入できることは事実ですが、飽くまでベースの仕入れ物件という観念からは外れず、再販業者などはこのような物件を買い取り、副債務を処理して占有状態も解消した上で、老朽化した設備や内装をリフォームしてから物件の売り出しをします。
これら手を入れるべき部分に手を入れていない物件を購入するのに安いことは当たり前で、その後手を入れることにかかるコストに関して重々考えた上で入札をしないと、心象的に傷を負い、あらゆるコストを無駄にかけ、結局お客様状態できれいな物件を購入する方が安上がりだったということになりかねません。
競売物件のご購入を考える際は、このコラムをよく読み返して熟考されて、よく計画を練られたうえでテクニカルに購入されることを強くお勧めします。