競売市場に不動産を購入したい一般の入札者が出入りするようになってから、競売による売却の債権回収率が飛躍的にアップし、一時は影を潜めていた任意売却という手法。
任意売却とは、住宅ローンの滞納などを理由に所有権以外の権利を原因に、所有者以外の権利者が強制的に物件を売却し、債権の回収をするようなケースにおいて、競売の申し立てをした後でも有効な売却方法の一つです。
債権者を相手に主に不動産買取業者などの第三者が交渉をし、債権額より安く抵当権等を抹消してもらうことで通常より安く物件を仕入れることができます。
本コラムでは特殊なケースではありますが競売以外の売却方法として存在する任意売却について、出来るだけわかりやすく説明をしていきたいと思います。
任売物件はどのように生まれるのか?
現在、競売市場が高騰しているために少し影が薄い感のある任意売却ですが、そのような中でも任意売却で処分せざるを得ないような物件があることも事実です。
比較的新しい不動産の場合はほとんどないのですが、古い不動産にはトラブルの種を持った物件が多く存在します。普通、物件を担保に融資をするときには、権利や都市計画など、物件を取り巻く環境にも細心の注意を払い、トラブルの種を持っている物件には融資はつかないものです。
しかし審査も所詮はマンパワーで行う作業であり、稀に審査上のミス等があることがあります。また、個人間や町場の金融屋等の担保融資の場合はこの限りではなく、諸問題を抱えた物件が多数とは言わないまでも、そこそこの確率で隠れています。
~競売のスムーズな進行を阻害する例~
庭にある納屋が一部境界を越えて隣の家の敷地に入った状態で建てられている場合。
建築基準法第43条1項ただし書に定義される私道に接道している物件で、同じ私道を使う権利者から掘削通行同意が取れず、建物に手を加えることができない場合。
市街化調整区域にある建物で、既存建物の建て替えという従前にあった特例を使うことが出来ず、古家であるにも関わらず建て替えができないような物件。
敷地の角などに他人名義の小さな土地が登記されていて、そのせいで使用収益上に不便が感じられる場合。
このような物件は普通、競売にかけても競落する人がいません。仮に安くで仕入れることができても、後々このトラブルを解消するのにいくらコストがかかるかわからないのと、もしかしたら永遠に解消することができない可能性もあるからです。
このような物件は、トラブルを解消するにあたりよほど確実な裏付けが取れていないと入札することに二の足を踏んでしまいます。そして競売にかけ不調に終わり、特別売却でも入札者は現れず、最終的には競売取下げになってしまいます。
そこで任意売却という手法が有効になるのです。筆者は不動産業界に足を踏み入れて一番最初に手を付けたのがこのような物件でした。
今はもうない某大手消費者金融会社が手掛けていた不動産担保融資の不良債権のうち、このような理由をもって競売にかけても処分することが困難な物件について、債務者の同意を得て任意売却をするというハードワークです。
最初に経験した仕事がこれだったために、強制的に宅建取引に対する知識を付けざるを得ない状態でしたのでその時は必死でしたが、今となってはこうして皆様にお伝えする知識の源ができたきっかけとして、感謝すべき経験です。
任意売却の流れ・仕組み
任意売却で物件を売却できるタイミングや流れについて説明します。任意売却の任意とは、債権者の任意になります。債権者が抵当権を付けている債権額よりも低い金額で抵当権を外すことに合意をして初めて成り立つことからそういいます。
しかしこの任意は、まず債務者が債権者に対して申し出をすることで始まりますので、債務者の任意であることも付け足しておきます。現実に任意売却の勧めをするとき、買取業者は先に債務者に対してアプローチを掛けます。
債務者に対して任意売却の内容を十分に説明し、債務者が納得した上で任意売却の交渉は始まります。
購入を希望する不動産業者などは、まず債務者から物件の債務にかかる詳細な内容を聞き取り、買取の可能価額を算定します。それから債権者との交渉に入ります。この交渉に入るタイミングは競売開始決定が下りた後でも構いません。
入札が終了し、落札者が決定する前であれば競売は取り下げることができます。債権者との交渉で、お互いが納得いく金額で抵当権を外すことができれば契約成立です。債権者は競売を取下げ、物件は業者の手に渡ります。
もちろん抵当権を安く外しているので残債務は債務者に残ることになりますが、無担保の債務になりますので今までのように生活の場を失う恐怖からは解放されますし、額が小さくなった分返済計画は楽に協議できることでしょう。
中古物件の仕入れ手法として再注目される任意売却
近年都市部では右から左に流れるようなきれいな物件が不足していること、地方でもトラブルの種を抱えた物件が多いことから、任意売却は物件不足の今、再び注目される不動産流通の手法であると言えます。
昔は競売に代わる債権回収の方法であり、トラブル含みの問題物件は任売市場でも敬遠されていましたが、今は競売にかけることができない不動産を有効に売却する一つの独立した手法として、これからの中古不動産の流通を支える重要な手法として注目されつつあります。
土地には限りがあり、流通量は一定であることから、新しいものを建てることができる場所が少なくなってきた今、ストックとしてたくさんある既存不動産を活用することが、これからの日本の不動産事情において重要な位置を占める、ということなのです。
まとめ
ここまで任意売却についてその流れ、仕組みを説明しました。本項で押さえておいてほしい点はまず、昔は競売に代わる売却の方法であったこと。
現在は不動産取引を取り巻く事情が変わったことによって競売にかけることができないいわくつきの物件を整理して流通をさせることが必要になったため、一つの手法として再注目されていること。
そして任意売却には、不動産のプロが介在することによって、プロの仕事でいわくを解消したり、債務者に対する競売では実現出来ない「忖度」をすることができるというメリットもあります。
これらについては別項にて詳しく説明させていただきます。まずは任意売却についての大まかな流れについて、ご理解いただければありがたく存じます。