不動産を安く購入できる方法という言葉だけが独り歩きし、エンドユーザーが市場に参入したことで結局安い仕入れ手段では現状無くなってしまっている競売の市場について、正直に不動産のプロの立場で言わせてもらうと、もうシステム的に必要ないのではないか、と思います。
代わりになるべく新しい流通手法もたくさん生まれ、インターネットを介して売りたい人と買いたい人が双方向でつながれるこの時代、血税を注いでまでわざわざ他人の不良債権をご丁寧な詳細資料まで作成して広告し、登記まで職権で済ませてあげるというのは、もう無駄でしかないような気がします。
このように考えようによってはすでに終了しているコンテンツでもある不動産競売について、今更人に聞くのも恥ずかしいというような基礎の基礎を、本項ではこっそりお伝えしておきたいと思います。
不動産の競売物件とは
競売には2種類のケースがあります。まず一つは税の滞納などにかかる公共的な債権の回収に絡んで、公共団体である債権者が物件を差し押さえたのち、競売の申し立てを経て行う強制競売。
もう一つは登記簿謄本に登記されている所有権以外の権利を行使すること、例えば住宅ローンの債務不履行によって、抵当権を行使して申し立てられるような担保競売です。
いずれにしてもいわゆる「借金のカタ」として不動産の所有権が効力を失い、債権の回収のために裁判所の手によってお金に代えられるのが、競売の簡単な説明になります。
ある一定の評価はされますが、これを売って利益を出すのが目的ではないため、比較的相場よりは安い値段で不動産が買える方法として一般にも注目を浴びるようになりました。
競売物件を購入するリスクは…?
しかし現状、エンドユーザーが自身で落札するケースが多く、例えば管理費の滞納が何百万円もあり、家庭内暴力で荒れ果てた現状のマンションが地域の相場値で落札されるなど、プロの目から見たら失笑ものの落札ケースが多くあり、競売市場自体が不動産を安く買える場でなくなってきていることも事実です。
債務整理の方法として媒介業者が銀行と交渉を行い、残債務よりも低い金額で抵当権を外してもらうことで普通売買の状態に持っていくという任意売却という手法も存在するにもかかわらず、銀行は現状の競売市場に非常に満足しており、「競売の方が回収率高いから任売には応じません」と笑いながら言い放たれる始末です。
入札者が任意の値段を付けて自由に入札出来るという仕組みが市場の秩序を狂わせる、本当は「素人入場禁止」にするべき世界が、競売の世界です。
民事執行法とは
競売について定義されている法律は、「民事執行法」です。基本的に行政は民事不介入です。
しかし、権利に基づく紛争の処理において、原因に基づいた判断を裁判所に対して求め、裁判所がこれについて処分をする。という趣旨のもとこの法律が定められ、その方法や手順について詳細に定義されています。
民事執行法には、債権の回収を目的とした物件の差押から、強制競売、担保競売のケースに分けたすべてのプロセスについて条文内に詳細に定義されています。
申し立てをどこに対してする。申し立てを受けて誰が調査に行き、どのような資料を作成し公告の何日後に裁判所に備え付けるなど、競売の手順はこの民事執行法の条文を追うことですべて理解することができます。
競売物件の残った債務はどうなるのか?
これについてはあまり知られるところではありませんが、複数の物件を同時に競売にかけ、債権の額を超える金額で物件が落札された場合、債権額を超えたあまりのお金は債務者に戻されます。
反対に落札価額だけで債権のすべてが賄いきれず、債務が残ってしまった場合、無担保の債務が債権者に残ってしまうことになります。
例えば住宅ローンの残債が2千万円ある状態で物件が競売にかけられ、1,500万円で落札された場合、足らずの500万円の債務は債務者に残って、債権者はこの500万円に関して引き続き債権を持つことになります。
物件を競売にかけたからすべてが終わり。というわけではないことも、競売の後味の悪いところであると筆者は考えています。
まとめ
競売のことを考えるうえで最低限の知識として、競売とは何かを説明してきましたが、冒頭にも書いた通り、競売市場も民事執行法もこの多様化の世の中において、既に崩壊しているシステムであるように思われます。
不動産の値段は原則自由につけることができ、売主が提示している価額を買主が了承すれば別にいくらで売り買いしてもかまわないのです。
しかし不動産で商売をしている宅建業者は、宅地建物取引業法という厳格な定義のもと、信義則に沿った買主第一主義の商売を貫いています。
個人が個人レベルで不動産の取引をすることで放置しておくことにトラブルが起こる可能性が高いことから、民法においても宅建業法においても無知のせいで不利益を生じさせることのない不動産取引の為公平な基準が設けられています。
しかし現状、個人が自由に出入りできる不動産競売の世界は、この信義則に沿った不動産取引の世界を侵す無法地帯であると筆者は考えます。
無知で入って市場を荒らしたうえ、実際にお客様で商品としての不動産を購入するより損をしてしまうような購入者の皆さんには、不動産取引の世界に伝わる秩序について、まずはご理解をいただきたいと思います。